東京高等裁判所 昭和34年(行ナ)28号 判決 1963年4月25日
原告 フランツ・ズーベルクリユーブ
被告 特許庁長官
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
原告のため上告期間として三ケ月を附加する。
事実
第一請求の趣旨および原因
原告訴訟代理人は、特許庁が昭和二九年抗告審判第二、一五七号事件について昭和三三年一二月二五日にした審決を取り消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。
一、原告は特許庁に対し同人の発明にかかる「一つの駆動軸より他の一つの駆動軸に馬力を流体弾性的に伝達する方法並に其の装置」につき、一九五一年(昭和二六年)一月一八日出願番号第六三九三号をもつて瑞西国でした出願に基づき、優先権を主張して、昭和二七年一月一八日これが特許出願(昭和二七年特許願第六一三号)をした。その後原告は昭和二七年二月四日訂正明細書を提出し、また被告よりは昭和二七年二月八日補充指令が出されたが、原告は昭和二九年九月七日拒絶査定を受けたので、これに対し同年一一月八日抗告審判の請求(昭和二九年抗告審判第二一五七号)をしたところ、被告は昭和三三年一二月二五日抗告審判の請求は成り立たないむねの審決をし、右審決書の謄本は翌昭和三四年一月一〇日原告に送達された。
二、原告の出願にかかる発明は、「捩りモーメントの伝達に必要な圧力が軸の回転の際遠心作用で生ぜしめられ、かつ一つの駆動継手部分と一つの被駆動継手部分との各々の圧面に作用するところの流体の質量に基づく力により生ぜしめられることを特徴とする、軸と共に回転する継手により一つの駆動軸より一つの被駆動軸に馬力を流体弾性的に伝達する方法」である。審決はこれに対し、「昭和二七年(一九五二年)一月一八日に提出された本件特許出願には、別紙(一)の発明明細書(以下原明細書という。)のみが添付され、図面は添付されていなかつたので、原明細書の記載のみから判断すると、本願発明の内容は特定し得ず、結局本願発明は要旨不明のものと認めざるを得ない。もつとも、昭和二八年二月四日に別紙(二)の訂正明細書(以下訂正明細書という。)及び図面が提出されているが、既述の如く原明細書記載の本願発明は要旨不明のものであるから、訂正明細書及び図面をもつて本願発明の内容を明確化したことは、結局要旨不明の当初の発明を後に至つて内容の明確な発明に変更したことに帰し、これはすなわち「要旨の変更」となる。よつて訂正明細書及び図面は採用できないから、本願発明が特許要件を具備するや否やの判断は、専ら原明細書のみによりなされなければならぬ。ところで、原明細書によれば、前述の如く本願発明は要旨不明のものであるから、特許法第一条にいわゆる工業的発明を構成しないものである。」と述べている。
三、原告は右審決は次に述べる諸点よりして違法なものであるから取り消さるべきものと思う。
(一) 法律上の理由
審決によれば前述の如く要旨不明の本願発明を、後に提出した訂正明細書及び図面をもつて明確化したことはいわゆる「要旨の変更」に該当するから、訂正明細書及び図面は採用の限りに非ずと判断している。
しかし、右は「要旨の変更」に関する法律の解釈を誤つたものと考えられる。すなわち、本件の場合において「要旨の変更」というには、先ず第一に原明細書記載の発明自体の内容が特定化ないし明確化していなければならず、次に訂正明細書及び図面をもつて前記発明の本質的同一性を変更するようなものでなければならない。しかるに原明細書によつては本願発明の要旨が不明のものというのであるから、すでにこの点において「要旨の変更」の概念の第一の要件を欠くものといわねばならない。よつて、これを目して「要旨の変更」なりと判断した審決は法律の解釈を誤つたものである。したがつて「要旨の変更」を理由として訂正明細書及び図面を採用しなかつた処分もまた違法たるを免れないのである。
ちなみに、
(イ) 図面の補充は特許庁長官の補充命令書が発せられる以前にすでに完了しているし、かつ図面の補充は当時においては特許庁をはじめ一般関係者の間にも広く認められていた慣行であるから、前記図面の補充が合法的であること勿論である。
(ロ) また原明細書と訂正明細書とその記載はほとんど同一であつて、ただ相違するのは、前者にあつては図面が添付されていなかつた関係上「図面の略解」を簡略に止めたのに反し、後者においては添付図面との関係上図面の詳細な説明をしている点にのみ存する。しかして、この程度の図面の詳述は決して本願発明の同一性を害する程のものではなく、かえつて本願発明の意味内容をその範囲内において明確化したに止まるものと解すべきである。
(ハ) 願書に添付する明細書及び図面には、完成された発明につきその発明の構成を明確かつ具体的に記載すべきであり、出願後に至つてみだりにこれに補充、訂正を加えるべきでないことは、未完成の発明をみだりに早期に出願する弊害を防止する意味で当然のことであり、出願人としても極力この方針に協力すべきであるが、それはあくまで原則であつて、本件の場合のように、外国における出願に基づき優先権を主張して日本に出願する場合は、すでに発明は完成されていてその変更を加える余地もないものであるから、前述の原則をそのまま適用する必要はないものと思う。ことに、本件の場合は、出願人の依頼状(甲第一二号証)により明かなとおり、已むを得ない事情により図面の同時提出ができなかつたものである。このような状態の下においては、未完成の発明の出願後における不正な変更の如きは全然起り得ないから、例外的に取り扱われるべきである。
(二) 事実上の理由
仮りに前項記載の法律上の理由が認められないとしても、原明細書のみによつては本願発明の要旨が全然不明であるとした審決は事実の認定を誤つたものである。原明細書のみによつてすでに本願発明の内容が明確化していることは左記のとおりであるから、要旨不明を基礎とした審決は到底破棄を免れない。
(イ) 本願の発明の目的および新規とする点は原明細書に充分記載されているものであり、また訂正明細書の第一頁第二行ないし第四頁第一行に記載の「発明の名称」「発明の性質及目的の要領」および「発明の詳細なる説明」の一部、の各事項はいずれも原明細書の第一頁第二行ないし第四頁第一行に記載せられたところと同一であつて、問題はないと思う。
(ロ) 訂正明細書の第四頁第二行ないし第五行に記載の「本発明は…………方法を目途とす」は本願の発明の目的を述べたもので、原明細書の「発明の性質及目的の要領」の項の記載にそい出願当初の要旨をなんら変更したものではない。
(ハ) 訂正明細書第四頁第六行ないし第五頁第三行に記載の「加之本発明は…………説明せんとす」は原明細書の第四頁第九行ないし第五頁第六行に記載の附記第一項の示すところから出て来る当然の説明であり、出願当初の要旨を変更したものではない。
(ニ) 訂正明細書の第五頁第四行ないし第六頁第二行に記載の「図面は本発明に拠る継手の…………それぞれ示す」は原明細書の第一頁第一一行ないし第二頁第一行に記載の「図面の略解」の項をやや具体的に説明したに止まり、その内容からしてこれまた出願当初の要旨を変更したものではない。
(ホ) 訂正明細書第六頁第三行ないし第九頁第五行に記載の「図面に於て原動機(1)の上に…………予め充分の流体と圧力とを室(8)中に存在せしむ」は本願の発明の方法を遂行せしめるべくした、一つの駆動軸より一つの被駆動軸に馬力を流体弾性的に伝達するための回転流体継手の一実施例の全般の具体的説明に過ぎず、原明細書の第四頁第九行ないし第五頁第六行に記載の附記第一項から当業者が容易に考えられる程度のものであり、しかも本項目に関し訂正明細書は原明細書の要旨を少しも変更したものではない。
(ヘ) 訂正明細書の第九頁第六行ないし第一〇頁第八行に記載の「場合に依り油を充したる室(8)を…………確実にせらる」は上記回転流体継手の構造中、室(8)から溢れ出る油に対処するための構造を説明したもので、原明細書の第五頁第七行ないし第六頁第一〇行に記載の附記第二項ないし第四項から当業者の容易に考えうる程度のものであり、その内容からして出願当初の要旨を変更したものではない。
(ト) 訂正明細書の第一〇頁第九行ないし第一一頁末行に記載の「駆動軸の…………油を以て充填せらる」は室(8)中の油量の調節をするための構造およびそのやり方を説明したもので、原明細書の第六頁第一一行ないし第七頁第三行に記載の附記第五項および第六項から当業者の容易に考えうる程度のものであり、その内容からして出願当初の要旨を変更したものではない。
(チ) 訂正明細書の第一二頁第一行ないし第四行に記載の「環状室(15)及管(16)の代りに…………環状室(19)に戻さる」は本願の発明の要旨内における一部構造の変形を示すもので、これまた原構造から当業者の容易に考えうるところのものである。
(リ) 訂正明細書の第一二頁第五行ないし同末行に記載の「本発明に拠る流体弾性継手の構造は…………固定せらる」は本願の発明の回転流体継手の応用範囲を説明したもので、この継手の構造からして当業者の直ちに考えうるところである。
(ヌ) 訂正明細書の第一三頁第一行ないし第一六頁第二行に記載の「特許請求の範囲」および「附記第一項ないし第六項」はいずれも原明細書の第四項第二行ないし第七頁第三行に記載されたところのものと全く同一であつて、その内容もきわめて明白であるから、なんら問題はない。
(ル) 訂正明細書と同時に補充の図面もまた原明細書の記載事項より当該専門の相当の技術者の容易に描きうるものである。
以上(イ)項ないし(ヌ)項のいずれにおいても訂正明細書は本願の発明の構成要件を包含する原明細書の要旨を変更したものではなく、原明細書の記載事項より推してその記載事項は当業者が容易に考えうる程度のものであり、しかも本願の発明を詳細に説明した訂正明細書は前記(イ)項ないし(ヌ)項をその全内容とするものであり、訂正明細書および図面((ル)項)に記載のとおり本願の発明は新規にして工業的に有用で所期の作用および効果を奏するものであるから、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第一条のいわゆる特許要件を具備するものである。
第二被告の答弁
被告指定代理人は主文第一、二項どおりの判決を求め、次のとおり答弁した。
一、請求原因第一、二項の事実は認める。同第三項の点は争う。
二、(一) 請求原因第三項(一)前段について
原告の主張は余りにも法文の解釈を形式的にしたものといわざるを得ない。要旨変更の適用に当つては、先出願主義の観点からすれば、出願当初の明細書に記載された発明が必ずしも明確化されていることを必要としないのである。
普通一般に起る問題は出願当初の明細書に一つの発明が明確に表示されている場合であるが、特殊の場合として出願当初の明細書に記載された発明が未完成であるかあるいは、要旨不明であつて、すなわち出願当初の発明は零であつて、出願後の訂正によつて発明が完成されたかあるいは要旨が明確になつた場合、すなわち出願後に零ではない発明に訂正された場合も当然含むものと考えるべきであつて、このような場合発明は零から零でない有価値のものに変更されたものであるから、出願後の訂正は要旨を変更したものとなるのである。先出願主義の下で書面のみによつて審理を行う建前からすれば、要するに要旨の変更か否かは出願当初の明細書による発明の実質と訂正された後の実質とを比較して、両者の間に実質の変更があるか否か、したがつて訂正されたものが出願当初の明細書から当然推測されるものであるか否かによつて判断するものであり、発明として零であつたもの(要旨不明)がなんらかの発明の形を整えたものに訂正された場合は当然実質が変更されたのであることは明白であつて、この場合の出願後の訂正は明らかに要旨変更である。しこうして本件の場合出願当初の明細書に記載された発明は零のもの、すなわち、要旨不明であつて、出願後に差し出した訂正書によつて出願当初のものを一つの明確な発明、すなわち零ではない有価値の発明に訂正したものであり、訂正の前後において零から零でないものに、すなわち要旨不明から要旨明確なものに訂正されたものであつて、出願当初の明細書と訂正後の明細書とはその実質が変更され、かつ訂正された明細書の実質が出願当初の明細書から当然推測されるものではないのであるから、本件の場合の出願後の訂正は要旨を変更したものとして採用できないものである。
したがつて原審決にはなんら、法律の解釈について誤つた違法の点はない。
(二) 同第三項(一)の(イ)について
先出願主義の下においては特許される発明とは、出願当初の明細書に一応完成された形で説明されている発明であることが必要なのであり、この観点からすると、出願後における図面の補充は一定の制限内で認められるに過ぎないのであつて無制限に補充が認められるのではない。その一定の制限とは、出願当初の明細書の説明が非常に詳細であつて、その説明によつて当然特定の図面が間違いなく描かれると認められるような場合、すなわち説明が図解と同じ程度に詳細にされている場合に単に補足的になされるのみである。ところが本件の場合出願当初の明細書は極めて簡単であつて要旨不明であり、かつ明細書の説明によつては到底特定の図面が正確に描かれうるものとは認められないのであるから、本件の場合図面の補充は要旨変更として認められないのである。
若し無制限に、図面の補充が認められるとするなら、例えば出願人がまだ単なる着想のみしか得ておらずまだ発明の完成には至つていない時機にその着想のみで一応出願をして出願日を確保しておけば、出願後に色々と考案を加えて発明を完成しその完成した発明についての図面を補充することが認められることになり、出願人は発明が未完成の時機に後に完成した発明の出願日を事前に確保したという結果になり、このような結果は先出願主義を定めている旧特許法第八条の規定を無意味にしてしまうことになるのであつて、このようなことは当然認められないことである。
(三) 同第三項(一)の(ロ)について
原明細書と訂正明細書とを比較検討して見るのに、前者は極めて簡単であつて要旨不明のものであるのに対し、後者は前者の数倍の記載量を有する詳細なものであつて、質的に見ても両者がほとんど同一などとは到底認められるものではない。また原告は添付図面の補充が採用されることを前提として主張をしているが、図面の補充は前述のように採用されないのであるから、原告は前提において誤りを侵していて、その主張は当然認められないところである。
出願当時の明細書に図面は添付されているが、図面についての詳しい説明がない場合、その図面が正確なものであつて、その図面と明細書の簡単な説明により発明の内容を確認できるような場合には、出願後において図面についての詳しい説明を訂正書として差し出せば、その訂正書は当然採用されるのであるが、本件の場合は出願当初の明細書に図面が添付されていないのでこの事例に該当しない。
また逆に出願当初の明細書に図面は添付されていないが明細書の説明内容が非常に詳細であつて、当然添付されるべき図面の内容を明細書の説明から判断できる場合には、出願後に図面の補充をすればそれは採用されるのであるが、本件の場合出願当初の明細書の説明は非常に簡単であつて要旨不明であるため、この事例にも該当しない。
(四) 同第三項(一)の(ハ)について
外国における出願に基づく優先権を主張する出願に対して要旨変更に関し特別の取扱いをするむねの規定は特許法その他の法律の何処にも規定されておらず、優先権を主張する出願といえども他の一般の出願と同等に扱うべきことは当然であつて例外的に取扱うべき理由はない。
先出願主義の下で書面審査を行う場合「発明が完成されている」ということは出願当初の出願書類の上で明確に示されていなければならないのであつて、出願当時に発明が完成されていたか否かの事実の存否を問う必要はない。本件の場合も仮りに「発明が完成されていてその変更を加える余地もないもの」であつたとしても、その完成された発明が出願当初の明細書に明示されていなければならないのである。しかるに本件の場合出願当時の明細書によつては出願人の発明したという技術思想を明確に理解することはできないのである。なお原告が昭和二七年三月二六日付で提出した優先権証明書に添付された図面と昭和二七年二月四日付で提出した訂正明細書に添付された図面とは一見して異ることが明らかであり、両者の間には変更があつたと見て然るべきであつて、原告が「変更を加える余地もないもの」と述べていることは本件の場合事実と相違していると認められる。
原告は「甲第一二号証を見れば出願当時図面を添付できなかつた事情が諒解できる」と述べているが、如何なる事情があつたとしても、法律の規定以外の理由を主張することは無意味である。念のため甲第一二号証の訳文を見るのに、「同封の図面は仮りのものとお考え下さい」とあつて、一応出願前に代理人の許に図面が送付されているようであり、原告の主張は事実と相違しているのではないだろうか。
三、同第三項の(二)について
出願当初の原明細書を見るのに、極めて簡単な内容であつて、この程度の内容を如何に精読しても如何なる発明が記載されているかを判断することは到底不可能である。したがつて原明細書だけでは原告が出願した発明の構成、作用、効果および実施の態様等が不明であり、結局原明細書は要旨不明のものであるというの他ないのであつて原審決はなんら事実の認定を誤つたものではない。
(A) 先ず原告は原明細書及び訂正明細書を分解して対比させているが、そのような分解を行わないで原明細書全体を検討して見るのに、原明細書(甲第九号証)は発明を完全に説明したものではなく原明細書は要旨不明のものである。すなわち原明細書に記載されている説明によつては、出願人が発明したという装置が具体的に実施された場合如何なる形態になるかを判断することができず、特許請求範囲に記載された内容が如何なる技術思想を表現しているのか、またその作用、効果、目的が如何なるものであるかを判断することもできない。したがつて原告が「本願は新規な発明」であると主張しているが、そうではなく、本願は要旨不明のものである。
(B) 次に(イ)ないし(ヌ)の項および図面の補充についてであるが、原審決において次の如く審理し原告の主張を採用しなかつたものである。
(i) (ホ)に対して、出願当時の明細書の附記第一項を明細書全般を参照して検討して見ても、附記第一項の内容を正確に把握判断できるものではなく、出願当時の明細書中の附記第一項を訂正明細書中のように図面を添付して詳細に説明した内容は、出願当時の明細書全体の内容から当然推考される範囲内のものとは当底認められないので、この点一点においても訂正明細書は要旨を変更したものとして採用できなく、請求人(原告)の主張は採用できない。
(ii) (ヘ)に対して、出願当時の附記第二、三及び四項を訂正明細書中のように図面を添付して詳細に説明した内容は、出願当時の明細書全体から当然推考される範囲内のものではなく、この点においても訂正明細書は要旨を変更したもので採用できなく、請求人(原告)の主張は採用できない。
(iii) (ト)に対して、(i)及び(ii)で述べた趣旨と同様であつて、請求人(原告)の主張は採用できない。
(iiii) (チ)に対して、既述のように、この出願の要旨、発明の実施例等は不明のものであるから、不明のものについての一部構造の変形や具体的構造は存在しないのであつて、請求人(原告)の主張は採用できない。
(v) (リ)に対して、(iiii)で述べたと同じ趣旨で請求人(原告)の主張は採用できない。
(vi) 図面の補充に対して、出願当時の明細書全体の内容からは発明の実施例と見做される正確な図面は到底描きうるものではなく、まして訂正明細書に添付された図面を出願当時の明細書全体の内容から描きうるとは認められないので、図面の添付は要旨変更として採用できなく、請求人(原告)の主張は採用できない。
第三、証拠<省略>
理由
一、原告主張の一および二の事実は当事者間に争がない。
二、右争のない事実と成立に争のない甲第二号証、第九号証を合せ考えると、原告が昭和二七年一月一八日特許出願の際提出した原明細書には図面の添付がなく、同年二月四日に提出した訂正明細書には図面が添付されていることが認められる。
三、そこで審決に原告主張の如き違法の点があるか否かにつき以下順次判断することとする。
(一) 請求原因第三項(一)について、
先ず原告は審決がいわゆる「要旨の変更」に関する法律の解釈を誤つたものであると主張するが、およそ特許出願における「要旨の変更」とは最初の明細書・図面にあらわされた発明の本質に変化を生ぜしめ、その発明としての同一性を失わしめる如き変更をもたらすものをいうものであるから、当初の明細書に記載された発明の要旨が不明であつて、訂正明細書および図面によつて要旨が明確になつた場合は、いわば無を有に変更したものであつて、その発明としての同一性を欠くものというべきこと勿論であるから、「要旨の変更」に該当するものと解すべきである。原告は原明細書記載の発明の内容が特定化ないし明確化している場合についてだけ「要旨の変更」の問題がありうるというが、このように解するときは、出願時には、完成されていない発明につき、出願当初の明細書には要旨不明の記載をなし、出願後明細書または図面を補正してこれを明確にすることにより、先願主義の原則は無視されるに至るおそれがあるから、右のように解することはできない。したがつて、この点に関する原告の主張は採用し難い。
(イ) 出願当初の明細書に図面の添付もなく発明の内容が不明である場合図面の補充が許されないと解する理由は前記のとおりであるから、それは特許庁長官の補充命令書が発せられる前であると後であるとを問わない。また、成立に争のない甲第一〇、一一号証の各一ないし五によつても、昭和二七年二月当時において、出願当初の要旨不明の明細書を後日図面によつて補充することが、特許庁をはじめ一般関係者の間に広く認められた慣行であることは認め難い。したがつて本件図面の補充が合法的であるという原告の主張は理由がない。
(ロ) 原告は原明細書と訂正明細書とその記載はほとんど同一であるというが、後記認定のとおり出願当初の明細書はその記載内容がはなはだ簡単であつて、出願された発明の要旨が不明であるのに対し、訂正明細書はその記載内容が詳細であるのみならず、添付図面およびその説明と相まつて出願された発明の要旨が明確であるから、到底同一であるとは認められない。
(ハ) 外国における出願に基づく優先権を主張する出願においても、願書に添付する明細書および図面には完成された発明につきその発明の構成を明確、具体的に記載すべきであり、出願後に至つて要旨の変更となるような補充、訂正を加えることは許されないものと解すべきである。けだし、右優先権主張の手続における要旨変更に関し例外的な取扱いを定めた法規は存在しないのみならず、そのように解しないで工業所有権保護に関する一八八三年三月二〇日パリ同盟条約第四条所定の期間内に提出した出願当初の明細書には要旨不明の記載をなし、期間経過後に明細書または図面を補正することが許されるとするならば、右期間の制限は容易に潜脱されることとなるからである。
なお、己むを得ざる事情により図面の同時提出ができなかつたとしても、このような場合に例外的取扱いを認めるべき法的根拠はないから、原告のこの点に関する主張は理由がない。
(二) 同第三項(二)について
原告は出願当初の明細書は要旨不明ではないと主張するが、鑑定人窪田雅男鑑定の結果および同鑑定人尋問の結果によると、出願当初の明細書の「発明の性質及び目的の要領」の記載から本件発明の特徴の概念が得られるに止まり具体的な構成は理解できないし、「図面の略解」も本件発明の技術内容を理解することには全く寄与するところがなく、「発明の詳細なる説明」について見ても、本件発明の内容を示す個所は僅かに六行の記載に過ぎず、これだけの記述から本件発明の内容を明確に把握することはほとんど不可能であり、当該専門の相当の技術者が「附記第一ないし六項」に基づき推理によつて説明を補つても、人を異にすれば、原明細書からは別異の構成を推察図示することができるに過ぎず、単一の構成を推察図示することができないことが認められ、結局その発明の内容を原明細書の記載から特定することができないものと認めざるを得ない。したがつて、本願発明の原明細書の要旨が特定できる程度に明確であることを前提とする原告の主張は採用することができない。
四、以上のとおりであるから、本件出願における訂正明細書および図面は要旨変更として採用し難く、本件出願は要旨不明のものであり、旧特許法第一条の発明をなしたものと認められず、同法条の要件を具備していないものというべく、これと同趣旨の審決にはこれを取り消すべきなんらの違法の点も見出すことができない。
よつてその取消を求める原告の請求は理由のないものとしてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を、上告期間の附加につき同法第一五八条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 関根小郷 福島逸雄 荒木秀一)
別紙(一) 明細書
発明の名称 一つの駆動軸より他の一つの駆動軸に馬力を流体弾性的に伝達する方法竝に其の装置
発明の性質及目的の要領 本発明は捩りモーメントの伝達に必要なる圧力が軸の回転の際遠心作用にて生ぜしめられ且一つの駆動継手部分と一つの被駆動継手部分との各のの圧面に作用する所の流体の質量に基く力に依り生ぜしめらるる事を特徴とする、軸と共に回転する継手に依り一つの駆動軸より一つの被駆動軸に馬力を流体弾性的に伝達する方法に係り其の目的とする所は従来のものに比し簡単にして軽量且廉価なる極めて優秀なる継手装置を得んとするに在り
図面の略解 図面は本発明の一実施例を示すものにして第一図は其の縦断面図、第二図は其の横断面図、第三図乃至第五図はそれぞれ各部の横断面図なり
発明の詳細なる発明 一つの駆動軸より他の一つの駆動軸に捩りモーメントを弾性的に伝達するための流体継手は既に知られたる所なり斯る目的に対しては多くの継手が使用せらる例へばフエツチンガー継手の如きものありこの継手に於ては流体が遠心力に依りて駆動軸上の渦巻ポンプと駆動軸上のターピンとの間に回転運動をなさしめらる両軸の間の回転数の差異は普通三%にしてこれはスリツプと称せらるこのスリツプは継手を作動せしむる為の絶えざる出力に相当すこの馬力の損失を別として例へば舶用機関に慣用の中小回転の際の継手は大にして重く且高価なり其の寸法は回転数の三乗に反比例す
他の一つの流体弾性継手は二つの継手部分を連結する為に一つのポンプ(例へば歯車ポンプ)の静流体圧を用ふ捩りモーメントの激しき変動の際過圧弁が圧力流体の一部の排出を可能ならしむ従つて駆動軸の捩りモーメントのピークが被駆動軸に伝達せず捩り振動は中絶せらるしかしながら馬力の損失、複雑なる構造及其の底部の急速なる磨滅はこの継手の欠点とする所なり直列して横はる二箇の軸の間に捩りモーメントを弾性的に伝達する本発明の方法は継手と共に運動する流体中に遠心力に依り生ぜしめらるる所の静流体圧を用ふ捩り振動の結果としての流体内部の圧力の変化は継手中にてそれ自体円周方向に互に近接せしめ又は互に遠け得る所の一次及二次の継手部分中に半径方向に配置せられたる壁に依り受止めらる流体エネルギーを使用の場合例へばフエツチンガー継手の場合はこれに依り避け難き出力の損失をもたらす本発明の継手はこれより軽量にして簡単且廉価なりしかも更にデイーゼル機関の普通のハズミ車の中に設けらるる事も可能なり
特許請求の範囲 本文所載の目的に於て本文に詳記し且図面に示す如く捩りモーメントの伝達に必要なる圧力が軸の回転の際遠心作用にて生ぜしめられ且一つの駆動継手部分と一つの被駆動継手部分との各のの圧面に作用する所の流体の質量に基く力に依り生ぜしめらるる事を特徴とする、軸と共に回転する継手に依り一つの駆動軸より一つの被駆動軸に馬力を流体弾性的に伝達する方法
附記
一 周辺上の境界と継手ケーシングの側壁との間に設けられたる半径方向の多数の壁を有する両軸端上の空洞継手ケーシング、軸の他端に間接又は直接に固定し継手ケーシングの半径方向の壁の間の空所に入り込む所の半径方向に放射状に配置せられこれに依り其の外縁及側縁を以てケーシングの壁を流体密にすると同時に円周方向に可動なる多数の壁及ケーシングの回転中継手の駆動部分の半径方向の壁と継手の被駆動部分の半径方向の壁との間の室の少くも一つの部分の中にて振りまわさるる所の或る量の流体より成る特許請求範囲記載の方法に拠る一つの駆動軸より一つの被駆動軸に馬力を流体弾性に伝達する為の回転流体継手
二 可動なる半径方向の壁(7)の縁に沿へる圧力室(8)より空室(13)に溢れ出る所の漏洩流体の通過の為に継手の駆動部分及其の被駆動部分の半径方向の壁の(4)及(7)の間に在る圧力流体の充されざる室(13)中継手ケーシングの周辺に近く孔(14)が内方より外方に向ひ配置せらるる附記一記載の回転流体継手
三 前記の孔(14)を通り逃ぐる流体を受くる為の継手の側方に設けられたる開放環状室(15)とこの室の中に在りて継手の外方より定位置に保持せられ其の外端は回転方向に反対に開くと共に其の内端は継手の内部にあり且回転軸の近くに在る環状室(19)に開口しこれより通路(20)を経て継手の圧力室(8)に導く所の管とを有する附記二記載の回転流体継手
四 外部環状室(15)の中に在る溜り管(16)が流体の通路を溜り管(16)の外方孔より内方孔に至るか、タンクより溜り管の内方孔に至るか又は溜り管の外方孔よりタンクに至るかを可能ならしむる所の三方コツクに依り継手の外方に定置せられたる流体タンク(17)に連結せらるる附記三記載の回転流体継手
五 流体を充したる圧力室(8)が相互の圧力均衡の為に互に連結せらるる附記一記載の回転継手
六 正規の回転数及正規の伝達モーメントの場合即ち正規の駆動状態の場合圧力室中の流体層の内表面の高さに在り内方より外方に向ふ流体用の側方通孔(24)の配置を有する附記一記載の回転流体継手
別紙(二) 訂正明細書及び図面
発明の名称 一つの駆動軸より他の一つの駆動軸に馬力を流体弾性的に伝達する方法竝に其の装置
発明の性質及目的の要領 本発明は捩りモーメントの伝達に必要なる圧力が軸の回転の際遠心作用にて生ぜしめられ且一つの駆動継手部分と一つの被駆動継手部分との各のの圧面に作用する所の流体の質量に基く力に依り生ぜしめらるる事を特徴とする、軸と共に回転する継手に依り一つの駆動軸より一つの被駆動軸に馬力を流体弾性的に伝達する方法に係り其の目的とする所は従来のものに比し簡単にして軽量且廉価なる極めて優秀なる継手装置を得んとするに在り
図面の略解 図面は本発明の一実施例を示すものにして第一図は其の縦断面図、第二図は其の横断面図、第三図乃至第五図はそれぞれ各部の横断面図なり
発明の詳細なる説明 一つの駆動軸より他の一つの駆動軸に捩りモーメントを弾性的に伝達する為の流体継手は既に知られたる所なり斯る目的に対しては多くの継手が使用せらる例へばフエツチンガー継手の如きものありこの継手に於ては流体が遠心力に依りて駆動軸上の渦巻ポンプと駆動軸上のタービンとの間に回転運動をなさしめらる両軸の間の回転数の差異は普通三%にしてこれはスリツプと称せらるこのスリツプは継手を作動せしむる為の絶えざる出力に相当すこの馬力の損出を別として例へば舶用機関に慣用の中小回転の際の継手は大にして重く且高価なり其の寸法は回転数の三乗に反比例す
他の一つの流体弾性継手は二つの継手部分を連結する為に一つのポンプ(例へば歯車ポンプ)の静流体圧を用ふ捩りモーメントの激しき変動の際過圧弁が圧力流体の一部の排出を可能ならしむ従つて駆動軸の捩りモーメントのピークが被駆動軸に伝達せず捩り振動は中絶せらるしかしながら馬力の損失、複雑なる構造及其の底部の急速なる磨滅はこの継手の欠点とする所なり直列して横はる二箇の軸の間に捩りモーメントを弾性的に伝達する本発明の方法は継手と共に運動する流体中に遠心力に依り生ぜしめらるる所の静流体圧を用ふ捩り振動の結果としての流体内部の圧力の変化は継手中にてそれ自体円周方向に互に近接せしめ又は互に遠け得る所の一次及二次の継手部分中に半径方向に配置せられたる壁に依り受止めらる流体エネルギーを使用の場合例へばフエツチンガー継手の場合はこれに依り避け難き出力の損失を齎らす本発明に極る継手はこれより軽量にして簡単且廉価なりしかも更にデイーゼル機関の普通のハズミ車の中に設けらるる事も可能なり
本発明は継手中の回転運動をせしめられたる流体が遠心力に依り静流体圧を生じ且この圧力を互に可動なる継手の駆動部分の圧面と其の被駆動部分の圧面との間に作用せしむる一つの駆動軸より他の被駆動軸に馬力を流体弾性的に伝達する方法を目途とす
加之本発明は継手ケーシングの周辺の境界と其の側壁との間に設けられたる半径方向の多数の壁を有する両軸端上の継手ケーシング、軸の他端に間接又は直接に固定し継手ケーシングの半径方向の壁の間の空所に入り込む所の半径方向に放射状に配置せられこれに依り其の外縁及側縁を以てケーシングの壁を流体密にすると同時に円周方向に可動なる多数の壁及ケーシングの回転中継手の駆動部分の半径方向の壁と継手の被駆動部分の半径方向の壁との間にて振りまわさるる所の或る量の流体より成る、前記の方法を利用せる静流体的且弾性的の馬力伝達用の継手をも目途とす次に本発明の其の他の重要なる目的を含めて次の詳細なる記述及添付図面にて説明せんとす
図面は本発明に拠る継手の一実施例の詳細を示すものにして第一図は継手と軸の中心線とを含む縦断面図、第二図は継手の外部より其の回転部分中に保持せられ且漏り減りの際継手の駆動部分と其の被駆動部分との間に流体を充し又は補充する役目をなす定置の供給管の附近に於ける継手の軸の中心線に直角の方向の横断面図、第三図乃至第五図は継手の駆動部分及其の被駆動部分の半径方向の壁の間に在る流体を以て充されたる室の附近に於ける各部分の軸の中心線に直角方向のそれぞれの横断面図なり
本例は駆動軸の捩りモーメントをこれに従属する被駆動軸に伝達する所のデイーゼル機械のハズミ車内に設けられたる本発明に拠る継手を示す而して各図の同一数字は同一部分をそれぞれ示す
図面に於て原動機軸(1)の上にハズミ車(2)を配置しこのハズミ車は数箇の部分(2)、(2a)及(2b)より成るこれ等の部分の間に形成せしめらるる円筒形の空室(3)は多数の半径方向の壁(4)(第三図乃至第五図参照)に依り分割せらるこれ等の壁(4)はハズミ車の周辺と側壁との間に設けられ且継手の流体の漏れざる様にす被駆動軸(5)上にボス(6)ありこの上に半径方向の壁(7)が放射状に配置せらる其の数及寸法はハズミ車内の壁(4)に依り定まる(第三図乃至第五図参照)壁(7)は円筒形の空室(3)の側壁及周辺を流体密にするもそれ自身は周方向に自由に動き得るなり壁(7)の側方及外縁の流体密は場合に依りバツキン帯に依りなさる半径方向の壁(4)及(7)の間の第二の室(8)の各のはハズミ車の回転の際外環(2a)(第一図参照)に対し投げつけられ且遠心力に依り生ぜしめらるる静流体圧を以て壁(4)及(7)を押す所の等量の流体(例へば油)を有すこの圧力の大さは回転数及室(8)中の油の量に依るのみならず半径方向に測りたる油リングの厚さにも亦依るなり例へば油が第三図に示す面(10)に達せず第四図に示す面(11)に達する場合(両者共室(8)に関す)にはたとへ室(8)中の流体の量自体が変らざるも壁(4)及(7)に対する圧力はより大となるべし捩りモーメントの増大する場合回転の変動の為に壁(4)及(7)の方に強く押しつけられ従つて流体面は自働的に上る
捩りモーメントの変動を吸収する為に壁(4)及(7)に対する全圧力は半径方向の厚さに依り一つの弾性スプリングと殆ど同様に一つの弾性クツシヨンの如き作用をなす例へばハズミ車(2)の捩りモーメントの変動に依り壁(4)が室(8)中の流体を押し半径方向の深さ(11)に達せしむる場合には継手の両部分の間の全圧力も亦上昇す他方圧力即ち捩りモーメントの下降の場合壁(4)及(7)の間の距離は捩りモーメントの変動の際の最大の速度増大中の最小値をとりたる後再び増大す
継手の周速度が変化する度に半径方向の深さのみならず静流体圧も亦二つの壁の間に於て変化する事は注目すべき点なり斯くの如く流体の深さ竝に其の中に生ずる静流体圧も亦比較的小なる全体寸法にて大なる捩りモーメント及其の変動を継手中にて受け止むる体制にある所の弾性的結合体として共同に作用す本継手が受くべき捩りモーメントの大さは回転数、空洞シリンダ(3)の最大直径、圧力下にある半径方向の壁の面と其の数及継手の駆動部分と其の被駆動部分との間の油の半径方向の深さに依る
原動機の回転、静止及短時間の逆転の際最初は少しの遠心力をも与へずこの状況に対してバネか又は弾性材料より成る緩衝器(12)かを壁(7)の両側に備ふしかしながら低回転に対しては壁(4)及(7)を互に離し且緩衝器(12)を解放する為に予め充分の流体と圧力とを室(8)中に存在せしむ
場合により油を充したる室(8)を出で半径方向の壁(7)の縁より近接せる空室(13)中へ溢れる油はこの空室(13)の外周の通孔(14)を通り再び押出されハズミ車の外方に設けられこれと共に回転する所の開放環状室(15)に行く(第一図及第二図参照)一箇又は数箇の定置の油溜り管(16)は開放環状室(15)の外側より保持せらる場合に依り共に振りまわさるる油(18)を受くる為に油溜り管の外方端は回転方向に反対に開く其の内方端は継手の内部の環状室(19)中に開口し回転軸の近くに在り加之ハズミ車の外部に定置のタンク(17)ありこのタンクは溜り管(16)に三方コツク(16a)を以て連絡しこれに依り管(16)の外方孔と内方孔と、タンク(17)と管(16)の内方孔と又は管(16)の外方孔とタンクとをそれぞれ連絡せしめ得るなり環状室(19)中の遠心力の作用の下に油は溝(20)を通り壁(4)及(7)の間の圧力室(8)に達す(第一図、第三図、第四図及第五図参照)この室中の流体の量及圧力の均等配分は環状溝(22)と圧力室(8)及前記の環状溝の間の連絡孔(21)とに依つて確実にせらる
駆動軸の正規の捩りモーメント及正規の回転数を受くるに適合せる室(8)中の油量を調節する為に環状室(3)及集油室(15)は壁(2b)を穿く所の多数の孔(24)に依り連絡せらる円筒室(3)の周より測りたるこれ等の孔(24)の半径方向の距離は室(8)中の油リングの適正の幅を調節す正規の回転数、正規の捩りモーメント及適正油量の場合孔(24)は壁(7)の縁に依り覆はる(第三図参照)室(8)中に油が過剰の場合壁(4)及(7)の距離を増大せしむる静流体圧は上昇し孔(24)は自由になり過剰の油は孔(24)を通り外方環状室(15)に入る(第一図及第五図参照)
油を最初に圧力室(8)に充し適正なる油の量を確保する為に第一に三方コツク(16a)を以て油タンク(17)を環状室(19)に連絡すれば油は環状室(19)より溝(20)を通り圧力室(8)に達すこれ等の室に油の入る事は壁(4)及(7)の距離の増大をして孔(24)が油に対し開ける程度になすこれに依り過剰の油は集油室(15)に溢れ出づ(第一図及第五図参照)然る後三方コツク(16a)を管(16)の外方端がタンク(17)に連絡する如くすこれに依り流れ出づる過剰の油は室(15)よりタンク(17)中に戻る斯くせば継手は適正量の油を以て充填せらる
環状室(15)及管(16)の代りに継手が孔(14)又は(24)を通り逃ぐる油を受くる為に固定のケーシングに連結する場合には環状室(15)及管(16)も亦全く省き得べし流れ出す油は継手の下方にあるタンクに集めらる而して(常に必要なるが)ポンプ類に依り環状室(19)に戻さる
本発明に拠る流体弾性継手の構造は亦一つの掛け外し自在の継手を同一のケーシングの内部に配置する事を可能ならしむこれに依り駆動軸及被駆動軸は必要に応じ互に連結し又は互に離脱せしめらる斯る配置の一つは例へば原動機とこれに従属する駆動装置との間に重要なりこの装置に於て半径方向の壁(7)は軸端上のボスに直接固定せられず其の内部分が例へば一つのジヨー・クラツチ継手又は薄板継手となし得る掛け外し自在の継手に対する継手部分を担ふ所の独立のリングの外周に固定せらる
特許請求の範囲 本文所載の目的に於て本文に詳記し且図面に示す如く捩りモーメントの伝達に必要なる圧力が軸の回転の際遠心作用にて生ぜしめられ且一つの駆動継手部分と一つの被駆動継手部分との各の圧面に作用する所の流体の質量に基く力に依り生ぜしめらるる事を特徴とする、軸と共に回転する継手に依り一つの駆動軸より一つの被駆動軸に馬力を流体弾性的に伝達する方法
附記
一 継手ケーシングの周辺上の境界と其の側壁との間に設けられたる半径方向の多数の壁を有する両軸端上の空洞継手ケーシング、軸の他端に間接又は直接に固定し継手ケーシングの半径方向の壁の間の空所に入り込む所の半径方向に放射状に配置せられこれに依り其の外縁及側縁を以てケーシングの壁を流体密にすると同時に円周方向に可動なる多数の壁及ケーシングの回転中継手の駆動部分の半径方向の壁と継手の被駆動部分の半径方向の壁との間の室の少くも一つの部分の中にて振りまわさるる所の或る量の流体より成る、特許請求範囲記載の方法に拠る一つの駆動軸より一つの被駆動軸に馬力を流体弾性に伝達する為の回転流体継手
二 可動なる半径方向の壁(7)の縁に沿へる圧力室(8)より空室(13)に溢れ出る所の漏洩流体の通過の為に継手の駆動部分及其の被駆動部分の半径方向の壁(4)及(7)の間に在る圧力流体の充されざる室(13)中継手ケーシングの周辺に近く孔(14)が内方より外方に向ひ配置せらるる附記一記載の回転流体継手
三 前記の孔(14)を通り逃ぐる流体を受くる為の継手の側方に設けられたる開放環状室(15)とこの室の中に在りて継手の外方より定位置に保持せられ其の外端は回転方向に反対に開くと共に其の内端は継手の内部且回転軸の近くに在る環状室(19)に開口しこれより通路(20)を経て継手の圧力室(8)に導く所の管とを有する附記二記載の回転流体継手
四 外部環状室(15)の中に在る溜り管(16)が流体の通路を溜り管(16)の外方孔より内方孔に到るか、タンクより溜り管の内方孔に到るか又は溜り管の外方孔よりタンクに到るかを可能ならしむる所の三方コツクに依り継手の外方に定置せられたる流体タンク(17)に連結せらるる附記三記載の回転流体継手
五 流体を充したる圧力室(8)が相互の圧力均衡の為に互に連結せらるる附記一記載の回転継手
六 正規の回転数及正規の伝達モーメントの場合即ち正規の駆動状態の場合圧力室中の流体層の内表面の高さに在り内方より外方に向ふ流体用の側方通孔(24)の配置を有する附記一記載の回転流体継手
第一図~第五図<省略>